Monday, June 02, 2008

-Novell CEO Linuxの課題を語る-               LinuxWorld 2007 San Francisco                TF#013 Archive 8/18/2007


今年も恒例の「LinuxWorld 2007 San Francisco」が開催(8/6-9)された。
ただこれまでのカンファレンスと異なり、サーバーLinuxは完全に成熟し、企業内データセンターでの活躍が期待されていることから「次世代データセンターNext Generation Data CenterNGDC)」と連携する催しとなった。

一方でデスクトップLinuxの人気が盛り上がってきた。業績不振だったDellは、ユーザからの要望を受けてLinux搭載機(デスクトップとラップトップ)を米国内で5月から発売し、ヨーロッパでも開始する。市販のプリインストール版パソコンLinux機はこれが初めてで、ユーザにとってはWindowsに代わる選択肢として人気が高い。会場ではDellによるデスクトップLinux教室やNovellによるメール・パビリオンも開設されて、大勢の人達が身近になったLinuxを楽しんでいた。

Linux成長の3つの課題>

さて、カンファレンスのキーノートで注目されたのはNovell CEO Ronald Hovsepian氏のキーノートだ。氏は同社のSUSE対応を交えながらLinux普及のための3つの課題について説明を始めた。

まず、①「ISVの拡大-Enlarging ISV」。

Hovsepian氏はカーネルやセキュリティなどLinuxの長所を生かすためには、アプリケーションを提供してくれるソフトウェア・ベンダー(ISVIndependent Software Vendors)との関わりを改善することが急務だと切り出した。Windowsと違い、Linuxの弱点は殆ど同じ筈だとは言っても複数のディストリビューションが存在することだ。このためISVは、彼らのアプリケーションを個別に移行して動作確認を行い、その後のメンテナンスも必要となって、煩雑な作業を強いられている。

コミュニティーとLinuxディストリビューター間には良好な関係が築かれて、これによってプロプライエタリーなプラットフォーム開発には見られない迅速化や高品質、そしてコスト削減が可能となっている。このような関係をISVとの間にも作り上げて、共栄するエコ・システムを築かなければならない。このため氏は、ISVアプリケーションの移行標準を定めた認定制度「ISV Certification Process」をLinuxの標準機能を決めるLSBLinux Standards Base)の延長で検討してみようと呼びかけた。

次に、②「次世代データセンターの具体化-Enabling Next Generation Data Center」だ。

ApacheSambaなど多くのコミュニティー、そして企業スポンサのEclipseMonoなどの幾つもの努力が重なって、Linuxの企業実績は増えた。調査会社のデータでもLinuxのもっとも有望な市場はデータセンターだという。だからこそ、Hovsepian氏はもう一度、議論の活発化している次世代データセンター(NGDCNext Generation Data Center)にどのように取り組むかを考えようと提言する。

NGDCの課題として氏は、仮想化、システム管理、セキュリティ、Linux、電源問題等を挙げ、自身の考えとSUSEでの対応を述べた。取り分け、仮想化は2010年までにLinux60%シェアを占めるだろうと言われているが、異機種混合下での物理的かつ論理的なシステム管理は容易ではないとし、Microsoftとの提携の正当性を暗に滲ませた。またセキュリティではアプリケーション領域の対応を訴え、SaaSSoftware as a Services)環境で安全に処理するためのプロファイルをコミュニティーの協力で「Community Profile Library」として探る方向を示した。全ての核となるLinuxについてはSunが進めるOpenSolarisとの融合も大事な要素だとし、ツールセットだけでなく、互いの交流によって、Solarisのインストールが簡素化され、Linux128ビットのファイル・システムが実装されるのなら大歓迎だとした。

 また、データセンターの省エネ問題について、OSから見た取り組みとしてAMDとの間でプロジェクトを立ち上げたと説明し、ハードウェア・ベンダーだけでなく、ソフトウェアとの連携によって、より効果的な管理を目指すという。

この省エネに関しては、HPAnn Livermore女史(EVP)も別のキーノートでハードウェア・ベンダーから見て、データセンターの効率的な運営のためには、仮想化技術や自動化運転でソフトウェアとの連携が不可欠であるとし、業界が立ち上げたデータセンター省力化の「The Green Grid」活動や「Big Green Linux」についても言及した。

最後に、③「市場拡大-Expanding Market」について、同社の新しい取り組みについて語った。まず、市場拡大の手法として自社だけで頑張るのではなく、異なる資源を組み合わせて行う「ミックス・モデル」を実践するとし、このためにIBMと提携したと発表。この提携では、IBMApache Geronimoベースのオープンソース版WebSphere Application Server Community EditionWAS CE)をSUSE Enterprise Linuxと共に配布してサポートする。これによってRed HatJBossの組み合わせに対抗し、中堅企業向けアプリケーション・サーバ市場を開発する。

次に、氏は「コミュニティー開発」を加速させ、コミュニティー・プロジェクトの活性化から市場を拡大させたいと述べた。この試みとしてコミュニティー版openSUSE向けに新たなディストリビューション作りを加速する「openSUSE Build Service」を強化する。このビルト・サービスは、デベロッパーが独自のLinuxディストリビューションをパッケージ化する開発支援環境で、パッケージ形式にはSUSEが採用しているRPMDebiandebに対応、これによってSUSEだけでなく、FedoraDebian/Ubuntuなどのパッケージングが可能となる。


Linuxのより一層の利用拡大のために、氏があげた課題には共感するところが多い。

デスクトップLinuxの人気が出始め、サーバーLinuxが企業内、特にバックオフィスで普及し、次なる目標が次世代型のデータセンターとして見えてきたことは喜ばしい。

氏が呼びかけるISVによるアプリケーションの充実、このためには誰の目にも新たな仕組みが要るように見える。ディストリビューター間のシェア争いだけでなく、このあたりの議論を加速させることは急務であり、それが出来なければ今までのプロプライエタリーな文化と同じになってしまう。その火付け役はオープンソースの重鎮やコミュニティーにあるように思うのだが。

-Napsterから生まれ落ちたSNOCAPのビジネス-        TF#012 Archive  7/15/2007


Napsterを興したShawn Fanning氏と仲間が立ち上げたデジタル・レジストリ・ビジネス(Digital Registry Business)のSNOCAP社(www.snocap.com)が軌道に乗り始めたようだ。

ノース・イースタン大学の学生だったShawn Fanning氏が、大学内のネットワークで仲間と音楽を共有するために作ったソフトウェアがP2P(ピァー・トゥ・ピァーPeer to Peer)の始まりである。ビジネスとしてNapsterを興したのは19999月のこと。ユーザは仲間と共有する意思がある音楽ファイルをNapsterのサーバに登録し、サーバが音楽ファイルと所有者のリストをまとめて管理する。ファイルをダウンロードしたいユーザは、同社のサーバ上のリストから欲しい音楽ファイルと所有者を検索し、専用ソフトウェアを使って所有者から直接ダウンロードする。これが若者をトリコにしたP2Pシステムの仕組みである。

しかし、ユーザの大部分は、彼らの技術を正しく使わず、実際のファイル交換の殆どが著作権を無視、同社はその年の12月に全米レコード協会RIAARecording Industry Association of America)から訴えられた。

Napsterのその後の変遷は厳しかった。

20013月に暫定敗訴となり、その後の交渉もむなしく、同年7月シャットダウン。2002年6月に破産、その資産はCD書き込みソフトウェア会社のRoxioが買収した。翌200310月、RoxioNapsterの資産を使って、法に準拠したサブスクリプションと有料のオンライン・ミュージック・サービスを立ち上げた。これは実際にはP2Pではなかったが、専用のクライアント・ソフトウェアを使って試聴後、専用サーバから有料でダウンロードするため「Napster 2.0」と呼ばれた。今日隆盛を誇るApple iTunes Storeがスタート(20034月) した半年後のことである。


1年後の2004年、RoxioNapster2.0500万曲を販売したと発表し、徐々に売上げを伸ばして2005年にはNasdaqに上場。その後、親会社のRoxio20048月、コンスーマ向けソフトウェア部門をSonic Solutionsに売却して、社名をNapsterと改名して現在に至っている。

このような状況の一方で、2002年、SNOCAPwww.snocap.com)が設立された。

当時まだ21歳であったShawn Fanning氏は何人かの仲間とNapsterが抱えていた問題を解決し、何とかP2Pを継続することを考えていた。レコード会社やアーティストがダウンロードを許してくれ、かつ彼らがそのまま著作権を保持するためにはどうすれば良いか。新会社の名前は既に「SNOCAP」と決まり、VCも資金供給を約束してくれていた。

紆余曲折の結果、20056月になって、やっとたどり着いた仕組みが「デジタル・レジストリ」である。この方法ではアーティストが自分で販売したい音楽を登録し、著作権を保持したまま販売する。配布は同社のサーバからでもP2Pでも構わない。つまり、アーティストとユーザを直接結ぶオンラインのエンド・ツゥ・エンド・ビジネスである。勿論、中小の独立系レコード会社が保有音楽を登録することも出来る。再生には指定されたDRMの搭載プレイヤが必要だ。この議論で活躍したのはShawn Fanning氏が最初に雇った元Napsterのシニア・テクノロジ・ディレクターAli Aydar氏であり、氏が現在のCOOである。


デジタル・レジストリには、3つの方法がある。

SNOCAP MyStore」は、SNOCAPサイト内に自分の店を出し、アーティストは自分たちの音楽をアップロードさせ、価格も自由に設定、SNOCAPの取り分は一律である。2つ目は「SNOCAP Linx」、これはレジストリを登録し、実際の音楽ファイルはレコード販売会社のサーバにあって、 それらをシームレスに連動させて提供する。3つ目が「P2P Plug-in」だ。これはSDKとして提供されるDDLAPIを使用し、デベロッパはSNOCAPとインターフェースを取りながら自由にシステムを作ることができる。この場合もレジストリはSNOCAPを使い、実際の音楽ファイルはP2Pで転送される。これらのサービスはPhilipsからライセンスされているデジタル音声指紋技術を使用した合法性を確保している。

昨年夏、アリゾナのローカル・バンド「The FORMAT」と組んでMyStoreのテストを開始した。結果は瞬く間に1,000ダウンロード販売に達し、この成功を受けて、昨年9月にはMySapce.com

が提携を申し込み、今年1月には独立系レコード会社が共同で立ち上げたライセンス管理のMerlinとも提携した。6月末には英EMI Musicも加盟し、MyStoreから直接DRMフリーの音楽を販売することとなった。続いて、音楽やビデオのSNSimeem.comも参加を決め、独立系レーベルや個人ミュージシャンの音楽300万曲をレジストリに登録、Imeemのユーザは無料、ミュージシャンには広告収入から報酬が支払われるサービスを開始した。

今までオンライン・ミュージックの著作権問題は難航してきた。

しかし、iTunesを始め多くのオンライン・サイトが出来、レコード会社も有力な販売チャネルとして認め始め、さらにDRMフリーの動きも顕在化してきた。SNOCAPのレジストリは、これらを取り纏め大から小までをポータル化する。やっと時代が巡ってきたようである。

Wednesday, May 21, 2008

-次世代BIのCPMが熱い、各社の戦略-              TF#011 Archive 7/8/2007

次世代BIBusiness Intelligence)への注目が集まっている。

企業のIT部門は、2000年のバブル崩壊から、コア・コンピータンス強化、事業再編、IT予算の削減、システムの全面Web化などをやり遂げ、やっとの思いでここまでたどり着いた。この流れの仕上げは、企業業績管理のCPMCorporate Performance Management)である。CPM活動計画によって設定された数値目標に対し、業績を多面的な角度から監視分析する。それによって、問題点を早期発見し、対策を立てて計画を達成するのが目的だ。CPMは、このためにバランス・スコアカード(BSC)やKPIKey Performance Indicator)を使った方法論、さらにPDCAサイクルなどのプロセス管理を全社に展開する。

AMR Researchートによると、この市場はBIと業績管理のPMPerformance Management)が一体化する方向にあり、2007年度の合算規模は239億㌦に達するという。この中でBIの基本インフラ部(Analytics Infrastructure)は43億㌦(成長率0.9%)、アプリケーション部(Business Intelligence)は56億㌦(同3.3%)、計99億㌦の規模だ。一方、PMに関係する分野は、計画/予算/予測が41億㌦(同1.7%)、ダッシュボード/スコアカードが58億㌦(同4.5%)、分析アプリケーションは34億㌦(同8.9%)の計133億㌦となって、BIより規模も成長率も大きいことが判る。

このような市場環境の変化は、ベンダにとってはチャンスである。

従来、BIERPのベンダは共存関係にあった。しかし、ここへきて変化が現れた。SAPOracleMicrosoft3社にとって、より効果的な運用を可能とするこれらのツールは、もはや競合上欠かせない機能となった。

Hyperionを買収したOracle2つの狙い-

3月始め、OracleBI最大手のHyperion Solutions33億㌦で買収した。

Oracleは自社開発のE-Business Suiteだけでなく、JD Edwardsを買収したPeopleSoftを傘下に収め(2004/12)、さらにCRMSiebel Softwareも手に入れて(2005/9)、SAPに肉薄する。

Hyperionの買収には、2つの意味がある。

ひとつは、経営財務の要素を取り入れたCPMHyperion System 9」の技術を同社のBIに統合し、総合的なパフォーマンス管理システムを提供することである。Oracleは、このところのBI市場の重要性から、Siebel買収で手に入れた技術から「Oracle BI Suite」を投入していた。良い意味でも悪い意味でも、同社の大型買収では、PeopleSoft2つのERPSiebelも通常のCRMとオンデマンド、さらに関連する分析系のBIでは重複する部分が多かった。しかしHyperionの買収は、それらには無かった財務系を補完する。特にHyperionのデータ統合ツールは複雑な財務システムを得意とし、またマルチソースが可能なEssbase OLAP


Oracle 10gを組み合わせることでより強力な製品になる。

もうひとつの狙いは、SAP切り崩しにある。

Hyperion製品は、Fortune 100のうち90社、全世界では1万社以上の導入実績を持つ。この中には多くのSAPユーザがある。とりわけ、財務系分析やデータ統合ではBusiness ObjectsCognosなどに比べ、SAPHyperionの親和性は高いと評価されてきた。この状況をSAPも良く認識し、Hyperionの買収を検討していたが出し抜かれた格好となった。


    


-自前から外部調達へ、受けて立つSAP

510日、受けて立つSAPOutlookSoftの買収を発表。

SAPOutlookSoft買収もOracleの場合も、狙いはCFOChief Financial Officer)である。

今までのBIが現業向けであったのに対し、最終形として企業全体の業績を分析管理するCPMでは、CFOとそのスタッフが運営するCFOオフィスが導入先となる。この一環としてSAP20064月、危機管理のVirsa Systemsを買収、以来、企業改革法SOXSarbanesOxley)対応のガバナンスとリスク管理、コンプライアンス遵守を組み合わせSAP Solutions for GRCGovernance, Risk & Compliance)」を展開してきた。今回のOutlookSoftの買収では、さらに財務関連を補強し、計画立案から予算編成と予測、そして連結管理までを「SAP Solution for Performance Management」として提供する。最新版「OutlookSoft 5」は、強力な予測機能を持ち、予測型の業績管理(Predictive Performance Management)が可能となる。

歴史を振り返ると、SAPはメインフレームのR/2からクライアントサーバ対応の「SAP R/3」でERP市場の地位を確立。その後、SOA向けNetweaver基盤の「My SAP」へと変身した。NetweaverJ2EE準拠のアプリケーション・サーバで、これによって3rdパーティへの開放やユーザによる自由なシステム構成が可能となった。一方で、アプリケーションをCRMSCMPLMProduct Lifecycle Management)、SRMSupplier Relationship Management)へと拡大させ、今年3月には、製品ブランドからMyをはずしてSAPだけとし、「SAP ERP」「SAP CRM」などと呼称を変更した。

この流れと平行し、SAPはこれまで自社開発で財務やコンプライアンス分野をカバーしようと試みてきた。財務情報を集めて連結決算を支援するSEMStrategic Enterprise Management)やサプライチェーンのキャッシュフローマネージメントFSCMFinancial Supply Chain Management)、SOX対応のコンプライアンス管理(Compliance Management)などだが上手くいかなかった。この自前主義から、Virsa SystemsOutlookSoftの買収で外部調達へと大きく戦略転換したことになる。


-挑戦するMicrosoftPerformancePoint Server-

先行2社に挑戦するのはMicrosoftだ。

Microsoftは昨年からDynamicsシリーズとして「Dynamics CRM」「Dynamics AXERPパッケージ)」を送り出した。SAPOracleが大手企業をユーザとするのに対し、Microsoftはその下のセグメントがターゲットである。今や中小企業にとってもBI/CPMは関心事であり、Dynamicsシリーズ拡販のためにも不可欠な要素となってきた。

5月始め、Microsoftは初の「BI Conference 2007」を開催し、市場への参入を宣言。

Microsoftのアプローチは、同社が持ち合わせる広範なテクノロジースタックがベースとなる。 核となるBIプラットフォームは、SQL SeverSharePoint Server 、それにOfficeが連携する。中でも「Katmai」と呼ばれる次期SQL Serverは、大規模データウェアハウス構築に適し、非構造データやOfficeからのリッチデータも格納できる予定だ。

カンファレンスではSoftArtisansの「OfficeWriter」買収が発表された。

OfficeWriterは、WebベースでOfficeの持つマクロやVBAVisual Basic for Applications)、クロス集計のPivot Tableなどを利用し、BIに求められる多様なグラフをExcelWord上に作り出す。CPM分野の要はBIプラットフォーム上に作られる「PerformancePoint Server 2007」だ。

この製品は昨年6月に買収したProClarityの技術をベースに、スコアカード管理、分析/計画立案などで構成され、OfficeWriterの搭載も予定されている。現在、PerformancePoint Server 2007CTPCommunity Technology Review)フェーズにあり、この夏にはリリースされる。

このような状況を背景に、ERPベンダ3社の熱い戦いが始まろうとしている。

-GPLv3を巡るTorvalds氏との軋み-           TF#010 Archive 7/1/2007

629日、とうとうGPLv3GNU General Public License Version 3)が正式にリリースされた。

振り返れば昨年116日、最初のドラフトを発表、その後、委員会が組織化され、インターネット上での議論、世界各地での検討会など多くの人や企業が参加してきた。発表と同時にRichard Stallman氏率いるFSFFree Software Foundation)から出された「理由書(Rationale Document)」には、v3策定の精神とアプローチについて、以下のように記されている。

「1991年以来、コンピュータ技術は変わったが、              

 しかし、これがGPLを改定する理由ではない。          

 GPLの関心事は技術ではなく、ユーザーの自由の維持にある」       

公開討論会でスピーチしたRichard Stallman氏は、v3で大きく取り上げたソフトウェア特許に対する考え方として、「GPLv2では個人がプログラムを修正・実行・配布する<基本的な自由>は保障されている、しかし、それらの権利は一度、特許侵害訴訟が起きると消滅しかねない。この綱渡り的な対応からユーザのソフトウェア・フリーダムを守るためには、何がしかの報復以外に道が無く、我々はv3でこの方法を選んだ」と説明した。

公表されたドラフトのポイントは、①「ソフトウェア特許」への対応、②「ライセンス互換」の扱い、③「デジタル著作権管理(DRM)」への対応の3つである。


その後の検討には紆余曲折があった。

中でもLinuxの生みの親、Linus Torvalds氏の発言は、終始、周囲をやきもきさせた。

まず氏は発表直後の125日、Linuxカーネル・メーリングリストの中でv3には移行しないと言及し、その理由として、反DRM条項の秘密鍵公開をあげた。これは個人情報を公開しろと言っているようなもので、自分ならしないし、秘密鍵や電子署名などの暗号化技術は、問題のDRMだけでなく、優れたセキュリティとして重要だと指摘した。確かにある部分はその通りであるし、FSFの初期ドラフトでは「デジタル制限管理-Digital Restriction Management」という文言を使って、やや過敏な対応となっていたことは否めない。

ただ、通常ならばこの条項について、自分の意見を述べ、修正を求めれば良かった。世界のデベロッパは重鎮である彼の言うことを真摯に受け止め、検討委員会も重要人物の意見として検討したに違いない。しかし、氏は、すぐにLinuxへの適用を否定したり、v3の草案や検討のプロセスについても批判し、これだけ普及しているLinuxの責任者の自分が積極的に関与できないことに対する不満ともとれるような態度を示した。

 

-オープンソースとフリーソフトウェア・コミュニティの軋み-

Linus Torlvalds氏がここまで発言した真意は何であったのか。

氏はまたメーリングリストの中で委員会のような制度は、全員の合意という名目で意見を押し通したい時に設立されるもので、自分は好きではないと言及。これは明らかにFSFへの不信感を意味し、フリーソフトウェア・コミュニティとの軋みを表面化させてしまった。

これまでフリーソフトウェアとオープンソースはGPLv2のもとで共存してきた。

フリーソフトウェアはユーザの自由な活動と権利を目的にコミュニティを形成、オープンソースも初期は同様な開発活動をしていたが、製品の普及につれて企業化が進み、少しずつ異なる方向に向かい始めた。とりわけライセンスの面では、企業化に伴って派生ライセンスが広がり、OSIOpen Source Initiative)も手を焼いてきた。GPLv3は時代にあったライセンスとは何かを検討改訂し、これらを抑制する側面も担っていた。


ここで、ポイントとなるのはキーマン2人のポジションである。

まずフリーソフトウェアのリーダがRichard Stallman氏であることに異論はない。一方のLinus Torvalds氏がオープンソースのリーダかというと、彼はLinuxカーネル開発のリーダであって、          

コミュニティとしては、必ずしもそうではない。ただ、これだけ普及したLinuxへの彼の功績は絶対的であるし、LinuxによってGPLが存在感を強くしたことは間違いない。Torvalds氏はv2は両方のコミュニティが折り合える形だが、v3は初期の段階からそうではないように思えると発言。即ち、彼には実情にあったように、2つのコミュニティが共同でv3を草起検討をすべきだという考えがあるように見える。そうだとすれば、そのような意見をv3検討のスタート前に述べるのがベストだし、その後も幾らでもチャンスはあったが、そうはせず、内容批判を繰り返した。結果、「Linuxv3に変えるつもりはない」という彼の発言だけが広まることになってしまった。


Microsoftへの特許対策-

さて、v3の検討過程で心配していた事件が起きた。

Microsoftによるソフトウェア特許問題である。v3がこの点を大きな改正点に挙げていた矢先、NovellMicrosoftWindowsLinuxの相互運用性」に関する提携を発表した。両OSの運用性向上はともかく、この契約には両社の金銭授受によるクロスライセンスが含まれ、これによってNovellユーザはMicrosoftの特許違反訴訟から除外されるとある。これに対し、コミュニティはMicrosoftの言い分である特許侵害を容認したとして猛反発。あわてたNovellは、「我々はLinuxやオープンソースが違反をしているとは認識していないし、これは万一の場合の備えである」と火消しに大わらわとなった。しかし、その後、Steve Ballmer氏は特許違反をしていると言及したり、顧問弁護士のBrad Smith氏も253件の違反があるとインタビューで答え、契約さえすればユーザは訴えられないと説明した。即ち、Microsoftと契約し、何がしかの便宜を同社に与えれば、見返りにユーザを訴えないと言う囲い込み戦略である。6月にはNovellに続きLinuxディストリビュータのXandrosLinspireが提携、噂があったUbuntuMark Shuttleworth氏は不明確な特許侵害の脅しに屈しないとブログで否定し、MandrivaCEO Francois Bancilhon氏もブログで相互運用性向上は重要だがそれはオープン仕様によって行われるべきだと批判。最大手のRed HatCEO Matthew Szulik氏も話はあったがNovell以前に破談になったと説明。現在、直接のLinux以外ではFuji XeroxLG ElectronicsNECNortel NetworksSamsungSeiko Epsonなどが契約している。


これに対し、328日に出されたドラフト3版では、この日以降同様の契約をした企業はv3によるソフトウェアの配布は禁止、ただ、今回のMicrosoft-Novell契約は容認することになった。これは戦略的なもので、Stallman氏曰く、Microsoftはミスを犯し、それが足かせになるだろうと述べた。即ち、Novellはいずれ何らかのv3プロダクトをバンドル配布することになり、そのような製品をMicrosoftは契約に従いクーポン販売したり、サポートすることになる。これらの行為によって、クロスライセンスを交わしたNovellのユーザだけでなく、v3プロダクトを利用する他ユーザも間接的に訴訟対象から免除せざるを得ない状況となる筈だと説明した。

このドラフト3版ではまた、反DRM条項も緩和された。

具体的には、その適用をコンシューマ製品に限定し、プログラムのコードだけでなく暗号化やそれに伴うキーなども開示するよう定めている。これによってユーザはソフトウェアの修正と再インストールの自由を確保し、いわゆる「TiVo-ization」は禁止となる。


TiVo-izationとは、TV録画のTiVoLinuxを採用し、

v2によってソースコードを提供しているものの、

修正ソフトウェアをインストールすると自動検出して

稼動出来ない設計となっていることを指す。


この改定について、Torvalds氏は軟化し、今までの採用しないから、かなり満足しているに変わり、その後、採用の可能性をほのめかすまでになった。


LinuxOpenSolaris-

さてLinus Torvalds氏は、Sun Microsystemsとの間にも問題を生じ始めている。

SunJonathan Schwartz氏はSolarisのオープンソース化を推進し、昨年5CEOに就任した。その後、Torvalds氏が問題視していたJavav2でオープンソース化し、現在はv3の採用に前向きな姿勢を示している。これに対しTorvalds氏は、Sunの戦略にも懐疑的で、Sunv3を採用することを前提に、一部で議論が始まった「LinuxカーネルのGPLv2v3のデュアルライセンス案」を一蹴。Sunはこれを機にOpenSolarisLinuxにぶつけて、打ち壊しにかかってくる戦略だと思い込んでいるように見える。

勿論、Sunとしてはv3を採用して、OpenSolarisを普及させたいところだろう。


Appleが次期Mac OSLeopard)でSun128ビット・ファイル・システムZFSZettabyte File System)を採用するように、Sunは得意とする機能をLinuxに組み込み込んで貰いたがっている。Torvalds氏は、それらが嵩じて、やがてはLinuxSolarisが全面対決する構図を心配しているのかもしれないが、v2に固執すればするほど状況は不利になる。

Schwartz氏はそんなTorvalds氏の最近の発言を耳にし、自分の意見をに書きこんだ。「私たちは、協力したい、力を合わせ、コミュニティを結合して共同で作業をしたいと思っています。特定の技術を出し惜しみしたり、特許がどうのこうのとうるさく言う気はまったくありません。これが本気の申し出であることの証として、貴兄を我が家での夕食に招待したいと思います。私が料理しますから、ワインを持って来てくださいますか。これこそ、真のマッシュアップです。」


“We want to work together, we want to join hands and communities - we have no intention of holding anything back, or pulling patent nonsense. And to prove the sincerity of the offer, I invite you to my house for dinner. I'll cook, you bring the wine. A mashup in the truest sense.”

(日本語訳と英文はSun Microsystemsサイトの同氏のブログから転載)

Web2.0の技術(3):                    -アドビAIRに挑戦するマイクロソフトSilverlight-         TF#009 Archive 6/15/2007

RIARich Internet Application)の世界で異変が起こりつつある。

Flashで大きくリードしていたAdobeに対し、Microsoftが挑戦し始めたからだ。

Microsoft4月中NAB2007National Association of Broadcasters Conference)で発表した「Silverlight」は、以前からWPF/EWindows Presentation Foundation Everywhere)と呼ばれていたもので、.NETベースのランタイムはクロスプラットフォームの各種ブラウザにプラグインとして提供される。

<新たなる挑戦-Microsoft Silverlight

Silverlightの一番の狙いは高画質ビデオ・ストリーミングだ。

この世界ではYouTubeMySpaceなど殆どのサイトがFlash Playerを採用しているが、一方でFlashの品質や表示能力には限界がある。Microsoftはこの点を突いた。そこでSilverlightではWMV/WMAWindows Media Video/Audio)フォーマットを軸に、同社が米国映画テレビ技術者協会SMPTESociety of Motion Picture and Television Engineers)に提出して規格化したVC-1MP-3を採用(MPEG-4AACには未対応)。VC-1WMV用の動画圧縮技術として開発されたもので、Windows Media PlayerにはWMV-9として実装されているし、HD-DVDBlue Rayなどにも採用されている。これらの技術を適用し、且つ2MBに満たないプラグインは、高品位テレビ並みの高性能プレイヤとして機能する。実際Microsoftによると、Silverlight720p1280×720ピクセルのプログレッシブ・スキャン)までの動画対応が可能だという。   

Silverlightはビデオだけでなく、アニメやグラフィックスでも高度な機能を展開する。

サイトのコミュニティ・ギャラリーには、マウスでページめくり(左下)が出来るサンプルやグランドピアノ(右下)が弾けるものなどが用意され、今までと違うユーザ・エクスペリエンスを味わうことが出来る。

 

Silverlightのスクリーン表示には、ブラウザ内に表示するエンベデッド・モード(Embedded Mode-左下)とデスクトップに表示するフルスクリーン・モード(Full Screen Mode-右下)の2つがあり、フルスクリーンではデスクトップのそれまでの解像度が適用されるし、切り替えはESCキーで簡単に出来る。

Silverlghtの技術的に素晴らしい点は、2D/3Dのオブジェクトの回転やイベント、プロパティ、リレーションシップなどの定義にXAMLExtensible Application Markup Language)を用い、実行には.NETの小型CLRCommon Language Runtime)を搭載していることである。これによってSilverlight.NETの簡易環境をブラウザ上に展開し、開発言語にはC#JavaScriptPythonRubyVBの使用が可能となった。XAMLはもともとWPFのコードネームであったAvalon時代には「Extensible Avalon Markup Language」と呼ばれていたことからも判るように2年以上もMicrosoftが暖めてきたものである。

そして開発環境には、「Visual Studio」や「Expression Sutudio」などが対応する。

とりわけ力をいれているのはExpressionだ。Expression Studioには、デザイナ用にWebデザインの「Expression Web」とXAMLがインラインに生成されるビジュアル・デザイン・ツールの「Expression Design」、インタラクティブ・エクスペリエンスの「Expression Blend」、ビデオ・プロフェッショナルにはデジタル・アセット管理やビデオ・エンコーディングを最適化する「Expression Media」が用意されている。現在、Expression Webは正式リリースが済み、Expression Blendはβ版、Expression DesignCTPCommunity Technology Preview)で、今年中には全てが正式リリースの予定だ。

Microsoftはまた、今回の発表に関連し、Silverlight用に作られたアプリケーションやコンテンツを同社データセンタにおいて最大4GB、速度が700Kbpsの配信サービス「Silverlight Streming」を無料で開始し、こうして、はっきりとAdobeへ挑戦する意思を明らかにした。

<受けて立つ-Adobe AIR/Flex 3

受けて立つAdobeは、611日、Apollo(開発コード)を「AIRAdobe Integrated Runtime)」と命名し、対となる開発環境の「Adobe Flex 3」と共にβ版としてリリースした。AIRβ版には、軽量の組み込みデータベース「SQLite」、透過ウィンドウ、ドラッグ&ドロップなどの新機能が追加され、PDFもサポート対象となった。

  

AIRのアプリケーション開発は多様だが、大雑把にAIR SDKFlex 3(含むFlex Builder 3)の2つと言っていい。AIR SDKにはAIRAPIや各種のスキーマ、テンプレート、アイコンなどが含まれ、Flex 3SDKには開発用コンパイラやライブラリ、デバッガーなど一連のツールが用意されている。Flex 3にはまた、EclipseベースIDEIntegrated Development Environment-統合開発環境)のFlex Builder 3があり、さらにデザインツールの「Adobe Creative Suite 3」との連携機能も加わって、デザイナからデベロッパへのワークフローや開発効率が大幅に向上した。

 Flex 3のβ版に先立ち、426日、Adobeは明らかにMicrosoftを意識して、FlexをMPLMozilla Public License)でオープンソース化すると発表。これによって、デベロッパはFlex SDKを自由にダウンロードして改良し、結果を製品にフィードバックすることが出来るようになった。開発にはMXMLMacromedia Flex Markup Language)やJavaScriptの標準規格ECMAScript 4を実装したActionScriptを用い、そのアプリケーションはMozillaに寄贈された「ActionScript Virtual Machine」を使用してFlash Playerでも実行することが出来る。Flex次期版「Moxie(コードネーム)」はプレリリースが今年夏、正式版は今年後半にリリースされる予定だ。

Microsoftからの挑戦を受けたAdobeにとって、想定されるシナリオはオープンソース戦略と製品整備である。翻ってみれば、20054AdobeMicromediaを買収してFlashを手に入

れ、育て上げてきた。今度はそのFlashAdobe自身がAIRに変身させる番である。その総指揮を執るのはSVPSenior Vice President)のJohn Loiacono氏だ。氏は元Sunのソフトウェア部門を現CEOJonathan Schwartz氏から引継ぎ、Solarisのオープンソース化を手がけた。そしてOpenSolarisが一段落した後、19年間働いたSunからAdobeに移り、クリエーテイブ・ソリューション・ビジネス部門のSVPに就任。彼の手の内には旧Micromediaの製品群やPhotoshopIllustratorなどがある。Sunでの実績を生かしてFlexをオープンソース化し、オープンソース・コミュニティのデベロッパを惹きつけて、Mozillaなどとも協調しながら、Microsoftと対立する図式を描きたいところだろう。

Tuesday, May 20, 2008

Web2.0の技術(2):                    -登場するハイブリッド・アプリケーション!-              TF#008 Archive 6/17/2007

 AjaxAsynchronous JavaScript + XML)がWeb2.0の核技術だともて囃されて久しい。

そして、今、注目を浴び始めたのはハイブリッド・アプリケーション(Hybrid Application)だ。AjaxWebスクリーンをJavaスクリプトのインタラクションで補完したのに対し、ハイブリッドはオンライン時のWebスクリーンを保存、その後、オフラインで取り出して処理し、再びオンラインに戻った時に、あたかも継続していたかの如く、シームレスな処理を続けることができる。

昨年5月、Google Labsが「Notebook」のβ版を発表した。これはブラウザにNotebookのアドオンを追加し、必要なページ上で右クリック・メニューから<メモを追加>を選んで、 Web情報にメモを書きとめて保存するサービスである。今年3月末には日本語などの多言語化も終わって正式にリリースされた。これを使えばWebスクリーンのハイライト部分やページ全部を保存したり、それらをGoogleアカウントを持つ仲間と共有することも出来る。Google Notebookはここまでだが、これでもやっと探し当てたWebページがいつの間にか消えてしまった経験をもつ身からは、URLだけでなくページ情報を保管するという意味で大きな改善であった。


さて、次は当然、保存したWebページを呼び出して、何か続きが出来ないかと考えたくなる。Googleが絶大な肩入れをしているMozillaでは、次期ブラウザ「Firefox3.0(開発コードネーム:Gran Paradisoで、オンライン時に「Local Data Store」へ保存したWebページをオフラインで

呼び出して処理させる計画を持っている。これが実装できるとWebメールなどのアプリケーションがハイブリッド化され、出張中のオフライン時でも仕事ができる。次期版ではまた、HTMLだけの現在のWebからWHATWGWeb Hypertext Applications Technology Working Group)が進めているオブジェクトやイベントの標準化案「Web Applications 1.0」をインプリメントし、次世代Webへ向けた対応も予定されている。

その後、6月に入って、Googleはオフライン・アプリケーション用のAPIGoogel Gears」を発表した。ただFirefox 3がこれに対応するかどうかは年内リリースとの兼ね合いで微妙である。Google Gears APIにはアプリケーションのキャッシングのための「LocalServer」、オープンソースの非構造化データを扱うSQLite利用のデータベース「Database Module」、マルチスレッドのバックグラウンドでScriptを実行する「WorkerPool」の3つがあり、同APIを利用したオフライン対応RSSフィード・リーダ「Google Reader」が同日公開された。

Ajaxを多彩に適用したeメールのZimbraからは、325日にハイブリッドで動作する「Zimbra Desktop」のα版がリリースされている。クライアント・ソフトはZimbrサーバとの同期化機能を持ち、さらにオフライン・データベース管理のためにApache Derbが必要となる。今年夏に予定されているβ版では、POPIMAPサーバとも連動し、また、主力製品「Zimbra Collaboration Suite」の次期版には標準搭載となる予定だ。

319日、AdobeWebとデスクトップを結びつける「Apollo:開発コードネーム」のα版を引っさげ、323日にはJoyentが「Slingshotサービスを発表した。

実は「Apollo」が始めてその姿を見せたのは1月末、パーム・デザートで行われた「Demo 2007」カンファレンスだ。ApolloHTMLJavaScriptAjaxAdobeFlash/Flexなどの技術を使ってデスクトップ上にRIARich Internet Applicationを作り出す。デモではオークション・サイトのeBay用に作成された「eBay Desktop」が使われた。このアプリケーションをクライアントPCにインストールし、eBayを呼び出す。するといつも見るブラウザ上のeBayはこのアプリケーションに乗り移って動き出す。例えばオークションに出品されている商品をドラッグ&ドロップで、Apolloで作成したウォッチ・リストに追加したり、そのリストを価格順に並べ変えたり、それらをExcelファイルに変換することも出来る。勿論、オフラインでFlashを使った動画のオークション商品を作成し、Apolloの自動認識でオンライン接続が確認されると、その内容を送信して同期化することも可能だ。Apolloは、簡単に言えば流行のウィジェット/ガジェットの大型版と言っても良いだろう。そしてAdobeは、611日、正式名称を「AIRAdobe Integrated Runtime)」としてβ版をリリースした。

      

一方、中小企業向けオンライン・コラボレーションを手がけるJoyentの「Slingshot」サービスは、「Ruby on Rails」ベースのアプリケーションをオンラインとオフラインで共用する。基本となる仕組みはRubyアプリケーションをデスクトップからドラッグ&ドロップでSlingshotのプラットフォームに移して実行し、この逆に戻したりすることでハイブリッド機能を提供する。同サービスの素晴らしい点は、既存アプリケーションがRubyであれば、そのまま実行できることだ。

これらのWebアプリケーンのハイブリッド化への試みは今始まったわけではなく、Sunは「Java Web StartJWS)」として以前から取り組んでいたし、また、最近ではPramati Technologiesのソシアル・シェアリング「Dekoh」β版、ハイブリッド機能をブラウザのオフライン処理機能で展開するScrybe」β版なども出て、どんどん増える傾向にある。

この技術が確立できれば、オフラインでも困らず、またブラウザは必ずしも必須ではなくなって、Web2.0はさらに新しいパラダイムに踏み出すことができる。 

Web2.0の技術(1):                    -Mac&YahooウィジェットとGoogleガジェット-            TF#007 Archive 6/15/2007

 ウィジェット(Widget)がデスクトップに最初に登場したのは、2005年4月末にリリースされたMac OS X 10.4(コードネームTiger)からだと思う。OS X 10.4では同梱されたミニ・アプリケーションをホットキー(デフォルトはF12)で切り替え表示するDashboardが登場した。つまりDashboardがウィジェットの実行環境となり、HTMLやCSS、JavaScriptを利用して作られたアプリケーションを走らせた。発表当時たった14個だったウィジェットは開発環境の公開と普及で、現在は3,000近くに膨れ上がっている。

        

 そのAppleは6月11日から始まったWWDC(World-Wide Developers Conference)で発売を6月末に控えたiPhoneについて、アプリケーション開発はWeb2.0準拠としてサードパーティに開放すると発表した。現段階で開発に関する詳細な情報はないが、タッチスクリーンのiPhoneアプリケーションは統制のとれたウィジェットの集合体であるかのようにみえる。

 Googleの場合、2004年に始まった「Google Desktop Search」は、当初タスクバーに検索ワクを設けた形で登場した。翌2005年8月には「Google Desktop 2」でスクリーン右側に表示されるサードバー(右上段)が登場し、ユーザは各種の情報をパーソナライズ出来るようになった。サイドバーはパネルと呼ばれる領域に区分され、そこに用意された「新着メール」や「株価」「天気予報」などのプラグインを選択して表示させる。これがGoogleガジェット(Gadget)の始まりである。

昨年2月に出たGoogle Desktop 3ではサイドバーのカスタマイズ機能を向上させたり、Ctrlキーを2度押すと「Quick Search Box」がスクリーンの中央に表示されて、どの場面でもすぐに検索が行えるようになった。Desktop 4(昨年5月)ではガジェットは大幅に増え、Desktop 5(今年3月)になるとWindows Vistaに合わせ、サイドバーが壁紙に溶け込む透明なデザインへと進化している。

ガジェット開発のために公開されている「Google Desktop Gadgets API」にはJavaScriptやVBScriptで作成するためのオブジェクトやメソッドが含まれ、それらは「Google Desktop SDK(Software Development Kit)」として提供されている。またDesktop 4からはインターフェース設計やテストなどを行う統合開発環境の「Google Desktop Gadget Designer」もリリース、一般デベロッパーによる「Google Desktop Gadget Contest」もスタートした。

 Microsoftも今年始めにリリースされたWindows VistaからGoogleと同様のサイドバー(右下段)とガジェットの提供を始め、デベロッパ向けリソース・サイト「Gadget Builder Depot」も開設している。

Googleはまた、4月末にユーザがカスタマイズできるポータル・サービスのパーソナライズ・ホームページを「iGoogle」と呼称変更して機能向上を図った。このiGoogleの使用にはGoogleアカウントがいるが、サイドバーのガジェットと同様のコンテンツが表示できるし、追加コンテンツにはGoogleならではの各種検索用のものやニュース/スポーツ/テクノロジーなどをRSSで集めた情報表示が勢揃いし、さらに整理のためのタブの追加、そして壁紙にあたるテーマ設定も可能となっている。



Googleガジェットの始まりと同時期、2005年7月、Yahoo!もJavaScriptのランタイム・エンジンを開発していたPixoriaを買収。Pixoriaの製品「Konfabulator」はWindowsやMac上でミニ・アクセサリを実行させることが出来た。Yahoo!はこれを広くXML APIに適用し、「Yahoo! Widget」として公開、ここでもデベロッパー・ネットワークの拡大が試みられた。

           
このようにウィジェットやガジェットには幾つかの方法がある。
ユーザ・インターフェースから見ると、AppleのDashboardウィジェットとYahoo!ウィジェットがスクリーン上のどこにでも配置できるという点で共通している。一方のGoogleとMicrosoftは酷似し、Googleはサイドバー上への配置にこだわり、Microsoftはこの方式に追従した。サイドバーはワイド・スクリーンに適し、いつでも見れるという利点の代わりに、情報量では制限がある。そこでGoogleはiGoogleと使い分け、一般にはサイドバー、上級使用にはiGoogleという併用作戦に出たようである。

さて、各社共、普及のためにデベロッパー・ネットワーク作りに注力している。
これまでに賞金付きのコンテストなどの甲斐あって、現時点での登録数はGoogleが7800件~、Yahoo!も4100件~、Appleが3000件~となっている。しかし、これらは仕組みがほぼ同様であるのに、実装方法が異なることから、デベロッパは同じような開発を行ったり、一方でユーザは混在使用が難しく、見せ掛けの混用もままならない。

この現象はAjaxも同様だった。
Ajaxの場合は、もっと多くのランタイム・エンジンやツールが存在し、状況を憂えたベンダ数社が音頭をとって2006年始め「OpenAjax Alliance」を設立した。しかし、一旦、広がった方法はひとつにはならず、現在はオープンソース化の推進を通して、相互互換性などに傾注している。

注目される動きがあった。
昨年6月Opera SoftwareがブラウザOpera 9のリリースに伴って、ウィジェット仕様を公開。
同社は、その仕様をW3C(World-Wide Web Consortium)に提出し、昨年の暮れからオープン・スタンダード「Widgets 1.0」として検討が始まった。ただW3Cで標準化が決まっても各社が従来路線を改め、ひとつの仕様に向かうことは容易ではない。一方では、実質、どの方法もAPIやSDKを公開し、一部ではコードもオープンソース化し始めている。状況は楽観的ではないが、エンタープライズへの適用には標準化は欠かせず、関係者の努力に期待したい。

Monday, May 19, 2008

-オープンソース・ビジネス・モデル-                   TF#006 Archive 6/1/2007 

今年初めて「Open Source Catalogue 2007」と題したソフトウェア・カタログが出た。

出したのはオープンソースのシステム・インテグレーションとコンサルティングを手がけるOptarosだ。このカタログ自身は「Creative Commons Attribution」ライセンスで公開されているので、ここに著作物の帰属をOptaros Inc.と明記し、その内容を紹介する。

カタログには262種のオープンソース・プロダクトとその評価が掲載されている。製品毎に、バージョン/概要/ライセンス/サポート形態などが記され、機能性やコミュニティ、成熟度が5段階で表示、さらに企業使用への適応度EREnterprise Readiness)や市場傾向も付加されている。この評価結果の公表は、コミュニティやベンダにとって悲喜こもごもとなったが、同社ではこれらは実務経験から得たものだと説明している。ここではカタログは同社サイトからダウンロードできるので、その評価は読者に任せるとし、以下、記載されているオープンソースと従来型ソフトウェア・ビジネスの差異、そして幾つかあるオープンソースのビジネス・モデルについて要約を試みた。


<オープンソース・ビジネス・モデルとその影響>

「オープンソース」は、特別目新しい概念でははなく、実際のところ1950年代のメインフレーム全盛期にはソフトウェアは無償で提供されていた。60年代になるとソフトウェアをビジネスとする考えが芽生え、それと共に第3者による変更を認めず、ソフトウェアを資産とする考え方が登場した。このような流れに対し、Richard Stallman氏は彼が開発していたEmacsエディタを解放して、ソフトウェアの自由(Software Freedom)を唱え、それがGNU Public LicenseGPL)を核とするFree Software Foundation活動の始まりとなった。

しかしながら初期のこの試みはなかなか進まず、90年代になって、インターネット時代の到来と共に一気に浸透し出した。そしてLinus Torvalds氏が1991年にLinux開発をスタートさせ、ApacheMySQLNetscapeSunなどがインターネット上のコミュニティを組織化するに従い、企業内使用の機運も高まって、各種のコンポーネントやインフラ製品が登場した。その後、それらのサポートやメンテナンス、コンサルテーションの要求も出て、初期のオープンソース・ビジネス・モデルが登場した。

普及が進むに連れ、オープンソースと従来型ソフトウェアのビジネス・モデルの差異も次第にはっきりしてきた。下図から判るように、今までのソフトウェア・ビジネス・モデルでは、収益はライセンスとサービス売り上げがほぼ折半し、コストの最大なものはセールス/マーケティングである。これに対し、オープンソース企業は、全般的にマーケティングやディストリビューションにコストをかけず、コミュニティを利用して高品質ソフトウェアを低コストで開発し、そのサービスの提供に焦点を合わせている。オープンソース・ビジネス・モデルでも、一部、デュアル・ライセンス(後述)によるライセンス売り上げはあるが、それらは微小で、基本的にはサービス売り上げが主体となっている。

このような市場の変化によって、従来型ソフトウェア企業の多くは、オープンソース・プロダクトからの価格圧迫を強いられ、結果として、それらの製品を自社製品に組み入れたり、オープンソース企業やプロジェクトを買収して対応せざるを得なくなってきた。

VC投資とビジネス・モデル>

VCVenture Capital)投資も活発となった。

VC議論の多くは、どうやってビジネスに仕上げるかであるが、以下の4つは、どのようにオープンソース・セントリックにするかを示したビジネス・モデルである。初めのモデル①「Proprietary Offerings」では、ソフトウェアのオープンソース版は一連のプロダクト・ラインのエントリ用として無償で提供され、それとは別に、一般企業が必要とする追加機能、ないし機能強化版が有償のプロプライエタリなコマーシャル・ライセンスで提供される。これらの代表的なものにはIBMWebSphereSugarCRMなどがある。

 2番目のモデル②「Dual Licenses」は、オープンソース版もコマーシャル版も同一のソースコードからなり、オープンソース版は無償のGPLなどでその普及を目指し、有償のコマーシャル版はサポートなどの付加価値をつけたものである。MySQLTrolltechQtなどが該当する。

モデル③「Subscriptions」は、オープンソースのサービスに係るサブスクリプション方式で、ソフトウェア自身に価格はない。利用するユーザは、パッケージングや新リリース、パッチ、サポートなどのために年間利用料を支払う。これにはRed HatSuSEなどのLinuxディストリビューション、JBossAlfresco、さらにはスタック・サービスのSpikeSourceSourceLabsなどが該当する。

最後のモデル④「Value Add Services」は、オープンソース・プロダクトに対する付加価値サービスである。このサービスは、どれか1つのプロダクトというよりも顧客の抱えるプロジェクトに依存したコンサルテーションやインテグレーション、サポート、ホスティングなどを通して複数のプロダクトを対象に行われる。Optaros社やLinagora社がこの範疇である。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

今やオープンソースはソフトウェアを取り巻く全体に影響を与える価値観を生み出した。

VCの投資や指導でビジネス・モデルも定着し始め、米国内の企業利用調査では、多くの企業で50から100以上のオープンソース・コンポーネントが使用されているという。

ただ、日々、システムの維持開発の追われる企業のIT部門にとって、実存する14万以上のプロジェクトの中からどのプロダクトが良いのかを見つけ出すのは、至難の業だ。このような状況下にあって、このカタログの試みは大いに評価されるべきであり、同社のようなシステム・インテグレータが、ユーザとコミュニティやベンダの間で調整役となって活躍することを期待したい。