次世代BI(Business Intelligence)への注目が集まっている。
企業のIT部門は、2000年のバブル崩壊から、コア・コンピータンス強化、事業再編、IT予算の削減、システムの全面Web化などをやり遂げ、やっとの思いでここまでたどり着いた。この流れの仕上げは、企業業績管理のCPM(Corporate Performance Management)である。CPMは活動計画によって設定された数値目標に対し、業績を多面的な角度から監視分析する。それによって、問題点を早期発見し、対策を立てて計画を達成するのが目的だ。CPMは、このためにバランス・スコアカード(BSC)やKPI(Key Performance Indicator)を使った方法論、さらにPDCAサイクルなどのプロセス管理を全社に展開する。
AMR Researchレポートによると、この市場はBIと業績管理のPM(Performance Management)が一体化する方向にあり、2007年度の合算規模は239億㌦に達するという。この中でBIの基本インフラ部(Analytics Infrastructure)は43億㌦(成長率0.9%)、アプリケーション部(Business Intelligence)は56億㌦(同3.3%)、計99億㌦の規模だ。一方、PMに関係する分野は、計画/予算/予測が41億㌦(同1.7%)、ダッシュボード/スコアカードが58億㌦(同4.5%)、分析アプリケーションは34億㌦(同8.9%)の計133億㌦となって、BIより規模も成長率も大きいことが判る。
このような市場環境の変化は、ベンダにとってはチャンスである。
従来、BIとERPのベンダは共存関係にあった。しかし、ここへきて変化が現れた。SAP、Oracle、Microsoftの3社にとって、より効果的な運用を可能とするこれらのツールは、もはや競合上欠かせない機能となった。
-Hyperionを買収したOracleの2つの狙い-
3月始め、OracleがBI最大手のHyperion Solutionsを33億㌦で買収した。
Oracleは自社開発のE-Business Suiteだけでなく、JD Edwardsを買収したPeopleSoftを傘下に収め(2004/12)、さらにCRMのSiebel Softwareも手に入れて(2005/9)、SAPに肉薄する。
Hyperionの買収には、2つの意味がある。
ひとつは、経営財務の要素を取り入れたCPM「Hyperion System 9」の技術を同社のBIに統合し、総合的なパフォーマンス管理システムを提供することである。Oracleは、このところのBI市場の重要性から、Siebel買収で手に入れた技術から「Oracle BI Suite」を投入していた。良い意味でも悪い意味でも、同社の大型買収では、PeopleSoftが2つのERP、Siebelも通常のCRMとオンデマンド、さらに関連する分析系のBIでは重複する部分が多かった。しかしHyperionの買収は、それらには無かった財務系を補完する。特にHyperionのデータ統合ツールは複雑な財務システムを得意とし、またマルチソースが可能なEssbase OLAP
とOracle 10gを組み合わせることでより強力な製品になる。
もうひとつの狙いは、SAP切り崩しにある。
Hyperion製品は、Fortune 100のうち90社、全世界では1万社以上の導入実績を持つ。この中には多くのSAPユーザがある。とりわけ、財務系分析やデータ統合ではBusiness ObjectsやCognosなどに比べ、SAPとHyperionの親和性は高いと評価されてきた。この状況をSAPも良く認識し、Hyperionの買収を検討していたが出し抜かれた格好となった。
-自前から外部調達へ、受けて立つSAP-
5月10日、受けて立つSAPがOutlookSoftの買収を発表。
SAPのOutlookSoft買収もOracleの場合も、狙いはCFO(Chief Financial Officer)である。
今までのBIが現業向けであったのに対し、最終形として企業全体の業績を分析管理するCPMでは、CFOとそのスタッフが運営するCFOオフィスが導入先となる。この一環としてSAPは2006年4月、危機管理のVirsa Systemsを買収、以来、企業改革法SOX(Sarbanes‐Oxley)対応のガバナンスとリスク管理、コンプライアンス遵守を組み合わせた「SAP Solutions for GRC(Governance, Risk & Compliance)」を展開してきた。今回のOutlookSoftの買収では、さらに財務関連を補強し、計画立案から予算編成と予測、そして連結管理までを「SAP Solution for Performance Management」として提供する。最新版「OutlookSoft 5」は、強力な予測機能を持ち、予測型の業績管理(Predictive Performance Management)が可能となる。
歴史を振り返ると、SAPはメインフレームのR/2からクライアントサーバ対応の「SAP R/3」でERP市場の地位を確立。その後、SOA向けNetweaver基盤の「My SAP」へと変身した。NetweaverはJ2EE準拠のアプリケーション・サーバで、これによって3rdパーティへの開放やユーザによる自由なシステム構成が可能となった。一方で、アプリケーションをCRM、SCM、PLM(Product Lifecycle Management)、SRM(Supplier Relationship Management)へと拡大させ、今年3月には、製品ブランドからMyをはずしてSAPだけとし、「SAP ERP」「SAP CRM」などと呼称を変更した。
この流れと平行し、SAPはこれまで自社開発で財務やコンプライアンス分野をカバーしようと試みてきた。財務情報を集めて連結決算を支援するSEM(Strategic Enterprise Management)やサプライチェーンのキャッシュフローマネージメントFSCM(Financial Supply Chain Management)、SOX対応のコンプライアンス管理(Compliance Management)などだが上手くいかなかった。この自前主義から、Virsa SystemsとOutlookSoftの買収で外部調達へと大きく戦略転換したことになる。
-挑戦するMicrosoftのPerformancePoint Server-
先行2社に挑戦するのはMicrosoftだ。
Microsoftは昨年からDynamicsシリーズとして「Dynamics CRM」「Dynamics AX(ERPパッケージ)」を送り出した。SAPやOracleが大手企業をユーザとするのに対し、Microsoftはその下のセグメントがターゲットである。今や中小企業にとってもBI/CPMは関心事であり、Dynamicsシリーズ拡販のためにも不可欠な要素となってきた。
5月始め、Microsoftは初の「BI Conference 2007」を開催し、市場への参入を宣言。
Microsoftのアプローチは、同社が持ち合わせる広範なテクノロジースタックがベースとなる。 核となるBIプラットフォームは、SQL SeverとSharePoint Server 、それにOfficeが連携する。中でも「Katmai」と呼ばれる次期SQL Serverは、大規模データウェアハウス構築に適し、非構造データやOfficeからのリッチデータも格納できる予定だ。
カンファレンスではSoftArtisansの「OfficeWriter」買収が発表された。
OfficeWriterは、WebベースでOfficeの持つマクロやVBA(Visual Basic for Applications)、クロス集計のPivot Tableなどを利用し、BIに求められる多様なグラフをExcelやWord上に作り出す。CPM分野の要はBIプラットフォーム上に作られる「PerformancePoint Server 2007」だ。
この製品は昨年6月に買収したProClarityの技術をベースに、スコアカード管理、分析/計画立案などで構成され、OfficeWriterの搭載も予定されている。現在、PerformancePoint Server 2007はCTP(Community Technology Review)フェーズにあり、この夏にはリリースされる。
このような状況を背景に、ERPベンダ3社の熱い戦いが始まろうとしている。