そして、今、注目を浴び始めたのはハイブリッド・アプリケーション(Hybrid Application)だ。AjaxがWebスクリーンをJavaスクリプトのインタラクションで補完したのに対し、ハイブリッドはオンライン時のWebスクリーンを保存、その後、オフラインで取り出して処理し、再びオンラインに戻った時に、あたかも継続していたかの如く、シームレスな処理を続けることができる。
昨年5月、Google Labsが「Notebook」のβ版を発表した。これはブラウザにNotebookのアドオンを追加し、必要なページ上で右クリック・メニューから<メモを追加>を選んで、 Web情報にメモを書きとめて保存するサービスである。今年3月末には日本語などの多言語化も終わって正式にリリースされた。これを使えばWebスクリーンのハイライト部分やページ全部を保存したり、それらをGoogleアカウントを持つ仲間と共有することも出来る。Google Notebookはここまでだが、これでもやっと探し当てたWebページがいつの間にか消えてしまった経験をもつ身からは、URLだけでなくページ情報を保管するという意味で大きな改善であった。
さて、次は当然、保存したWebページを呼び出して、何か続きが出来ないかと考えたくなる。Googleが絶大な肩入れをしているMozillaでは、次期ブラウザ「Firefox3.0(開発コードネーム:Gran Paradiso)」で、オンライン時に「Local Data Store」へ保存したWebページをオフラインで
呼び出して処理させる計画を持っている。これが実装できるとWebメールなどのアプリケーションがハイブリッド化され、出張中のオフライン時でも仕事ができる。次期版ではまた、HTMLだけの現在のWebからWHATWG(Web Hypertext Applications Technology Working Group)が進めているオブジェクトやイベントの標準化案「Web Applications 1.0」をインプリメントし、次世代Webへ向けた対応も予定されている。
その後、6月に入って、Googleはオフライン・アプリケーション用のAPI「Googel Gears」を発表した。ただFirefox 3がこれに対応するかどうかは年内リリースとの兼ね合いで微妙である。Google Gears APIにはアプリケーションのキャッシングのための「LocalServer」、オープンソースの非構造化データを扱うSQLite利用のデータベース「Database Module」、マルチスレッドのバックグラウンドでScriptを実行する「WorkerPool」の3つがあり、同APIを利用したオフライン対応RSSフィード・リーダ「Google Reader」が同日公開された。
Ajaxを多彩に適用したeメールのZimbraからは、3月25日にハイブリッドで動作する「Zimbra Desktop」のα版がリリースされている。クライアント・ソフトはZimbrサーバとの同期化機能を持ち、さらにオフライン・データベース管理のためにApache Derbが必要となる。今年夏に予定されているβ版では、POPやIMAPサーバとも連動し、また、主力製品「Zimbra Collaboration Suite」の次期版には標準搭載となる予定だ。
3月19日、AdobeがWebとデスクトップを結びつける「Apollo:開発コードネーム」のα版を引っさげ、3月23日にはJoyentが「Slingshot」サービスを発表した。
実は「Apollo」が始めてその姿を見せたのは1月末、パーム・デザートで行われた「Demo 2007」カンファレンスだ。ApolloはHTML、JavaScript、Ajax、AdobeのFlash/Flexなどの技術を使ってデスクトップ上にRIA(Rich Internet Application)を作り出す。デモではオークション・サイトのeBay用に作成された「eBay Desktop」が使われた。このアプリケーションをクライアントPCにインストールし、eBayを呼び出す。するといつも見るブラウザ上のeBayはこのアプリケーションに乗り移って動き出す。例えばオークションに出品されている商品をドラッグ&ドロップで、Apolloで作成したウォッチ・リストに追加したり、そのリストを価格順に並べ変えたり、それらをExcelファイルに変換することも出来る。勿論、オフラインでFlashを使った動画のオークション商品を作成し、Apolloの自動認識でオンライン接続が確認されると、その内容を送信して同期化することも可能だ。Apolloは、簡単に言えば流行のウィジェット/ガジェットの大型版と言っても良いだろう。そしてAdobeは、6月11日、正式名称を「AIR(Adobe Integrated Runtime)」としてβ版をリリースした。
一方、中小企業向けオンライン・コラボレーションを手がけるJoyentの「Slingshot」サービスは、「Ruby on Rails」ベースのアプリケーションをオンラインとオフラインで共用する。基本となる仕組みはRubyアプリケーションをデスクトップからドラッグ&ドロップでSlingshotのプラットフォームに移して実行し、この逆に戻したりすることでハイブリッド機能を提供する。同サービスの素晴らしい点は、既存アプリケーションがRubyであれば、そのまま実行できることだ。
これらのWebアプリケーションのハイブリッド化への試みは今始まったわけではなく、Sunは「Java Web Start(JWS)」として以前から取り組んでいたし、また、最近ではPramati Technologiesのソシアル・シェアリング「Dekoh」β版、ハイブリッド機能をブラウザのオフライン処理機能で展開する「Scrybe」β版なども出て、どんどん増える傾向にある。
この技術が確立できれば、オフラインでも困らず、またブラウザは必ずしも必須ではなくなって、Web2.0はさらに新しいパラダイムに踏み出すことができる。
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