6月29日、とうとうGPLv3(GNU General Public License Version 3)が正式にリリースされた。
振り返れば昨年1月16日、最初のドラフトを発表、その後、委員会が組織化され、インターネット上での議論、世界各地での検討会など多くの人や企業が参加してきた。発表と同時にRichard Stallman氏率いるFSF(Free Software Foundation)から出された「理由書(Rationale Document)」には、v3策定の精神とアプローチについて、以下のように記されている。
「1991年以来、コンピュータ技術は変わったが、
しかし、これがGPLを改定する理由ではない。
GPLの関心事は技術ではなく、ユーザーの自由の維持にある」
公開討論会でスピーチしたRichard Stallman氏は、v3で大きく取り上げたソフトウェア特許に対する考え方として、「GPLv2では個人がプログラムを修正・実行・配布する<基本的な自由>は保障されている、しかし、それらの権利は一度、特許侵害訴訟が起きると消滅しかねない。この綱渡り的な対応からユーザのソフトウェア・フリーダムを守るためには、何がしかの報復以外に道が無く、我々はv3でこの方法を選んだ」と説明した。
公表されたドラフトのポイントは、①「ソフトウェア特許」への対応、②「ライセンス互換」の扱い、③「デジタル著作権管理(DRM)」への対応の3つである。
その後の検討には紆余曲折があった。
中でもLinuxの生みの親、Linus Torvalds氏の発言は、終始、周囲をやきもきさせた。
まず氏は発表直後の1月25日、Linuxカーネル・メーリングリストの中でv3には移行しないと言及し、その理由として、反DRM条項の秘密鍵公開をあげた。これは個人情報を公開しろと言っているようなもので、自分ならしないし、秘密鍵や電子署名などの暗号化技術は、問題のDRMだけでなく、優れたセキュリティとして重要だと指摘した。確かにある部分はその通りであるし、FSFの初期ドラフトでは「デジタル制限管理-Digital Restriction Management」という文言を使って、やや過敏な対応となっていたことは否めない。
ただ、通常ならばこの条項について、自分の意見を述べ、修正を求めれば良かった。世界のデベロッパは重鎮である彼の言うことを真摯に受け止め、検討委員会も重要人物の意見として検討したに違いない。しかし、氏は、すぐにLinuxへの適用を否定したり、v3の草案や検討のプロセスについても批判し、これだけ普及しているLinuxの責任者の自分が積極的に関与できないことに対する不満ともとれるような態度を示した。
-オープンソースとフリーソフトウェア・コミュニティの軋み-
Linus Torlvalds氏がここまで発言した真意は何であったのか。
氏はまたメーリングリストの中で委員会のような制度は、全員の合意という名目で意見を押し通したい時に設立されるもので、自分は好きではないと言及。これは明らかにFSFへの不信感を意味し、フリーソフトウェア・コミュニティとの軋みを表面化させてしまった。
これまでフリーソフトウェアとオープンソースはGPLv2のもとで共存してきた。
フリーソフトウェアはユーザの自由な活動と権利を目的にコミュニティを形成、オープンソースも初期は同様な開発活動をしていたが、製品の普及につれて企業化が進み、少しずつ異なる方向に向かい始めた。とりわけライセンスの面では、企業化に伴って派生ライセンスが広がり、OSI(Open Source Initiative)も手を焼いてきた。GPLv3は時代にあったライセンスとは何かを検討改訂し、これらを抑制する側面も担っていた。
ここで、ポイントとなるのはキーマン2人のポジションである。
まずフリーソフトウェアのリーダがRichard Stallman氏であることに異論はない。一方のLinus Torvalds氏がオープンソースのリーダかというと、彼はLinuxカーネル開発のリーダであって、
コミュニティとしては、必ずしもそうではない。ただ、これだけ普及したLinuxへの彼の功績は絶対的であるし、LinuxによってGPLが存在感を強くしたことは間違いない。Torvalds氏はv2は両方のコミュニティが折り合える形だが、v3は初期の段階からそうではないように思えると発言。即ち、彼には実情にあったように、2つのコミュニティが共同でv3を草起検討をすべきだという考えがあるように見える。そうだとすれば、そのような意見をv3検討のスタート前に述べるのがベストだし、その後も幾らでもチャンスはあったが、そうはせず、内容批判を繰り返した。結果、「Linuxをv3に変えるつもりはない」という彼の発言だけが広まることになってしまった。
-Microsoftへの特許対策-
さて、v3の検討過程で心配していた事件が起きた。
Microsoftによるソフトウェア特許問題である。v3がこの点を大きな改正点に挙げていた矢先、NovellがMicrosoftと「WindowsとLinuxの相互運用性」に関する提携を発表した。両OSの運用性向上はともかく、この契約には両社の金銭授受によるクロスライセンスが含まれ、これによってNovellユーザはMicrosoftの特許違反訴訟から除外されるとある。これに対し、コミュニティはMicrosoftの言い分である特許侵害を容認したとして猛反発。あわてたNovellは、「我々はLinuxやオープンソースが違反をしているとは認識していないし、これは万一の場合の備えである」と火消しに大わらわとなった。しかし、その後、Steve Ballmer氏は特許違反をしていると言及したり、顧問弁護士のBrad Smith氏も253件の違反があるとインタビューで答え、契約さえすればユーザは訴えられないと説明した。即ち、Microsoftと契約し、何がしかの便宜を同社に与えれば、見返りにユーザを訴えないと言う囲い込み戦略である。6月にはNovellに続きLinuxディストリビュータのXandrosとLinspireが提携、噂があったUbuntuのMark Shuttleworth氏は不明確な特許侵害の脅しに屈しないとブログで否定し、MandrivaのCEO Francois Bancilhon氏もブログで相互運用性向上は重要だがそれはオープン仕様によって行われるべきだと批判。最大手のRed HatのCEO Matthew Szulik氏も話はあったがNovell以前に破談になったと説明。現在、直接のLinux以外ではFuji Xerox、LG Electronics、NEC、Nortel Networks、Samsung、Seiko Epsonなどが契約している。
これに対し、3月28日に出されたドラフト3版では、この日以降同様の契約をした企業はv3によるソフトウェアの配布は禁止、ただ、今回のMicrosoft-Novell契約は容認することになった。これは戦略的なもので、Stallman氏曰く、Microsoftはミスを犯し、それが足かせになるだろうと述べた。即ち、Novellはいずれ何らかのv3プロダクトをバンドル配布することになり、そのような製品をMicrosoftは契約に従いクーポン販売したり、サポートすることになる。これらの行為によって、クロスライセンスを交わしたNovellのユーザだけでなく、v3プロダクトを利用する他ユーザも間接的に訴訟対象から免除せざるを得ない状況となる筈だと説明した。
このドラフト3版ではまた、反DRM条項も緩和された。
具体的には、その適用をコンシューマ製品に限定し、プログラムのコードだけでなく暗号化やそれに伴うキーなども開示するよう定めている。これによってユーザはソフトウェアの修正と再インストールの自由を確保し、いわゆる「TiVo-ization」は禁止となる。
*TiVo-izationとは、TV録画のTiVoがLinuxを採用し、
v2によってソースコードを提供しているものの、
修正ソフトウェアをインストールすると自動検出して
稼動出来ない設計となっていることを指す。
この改定について、Torvalds氏は軟化し、今までの採用しないから、かなり満足しているに変わり、その後、採用の可能性をほのめかすまでになった。
-LinuxとOpenSolaris-
さてLinus Torvalds氏は、Sun Microsystemsとの間にも問題を生じ始めている。
SunのJonathan Schwartz氏はSolarisのオープンソース化を推進し、昨年5月CEOに就任した。その後、Torvalds氏が問題視していたJavaもv2でオープンソース化し、現在はv3の採用に前向きな姿勢を示している。これに対しTorvalds氏は、Sunの戦略にも懐疑的で、Sunがv3を採用することを前提に、一部で議論が始まった「LinuxカーネルのGPLv2とv3のデュアルライセンス案」を一蹴。Sunはこれを機にOpenSolarisをLinuxにぶつけて、打ち壊しにかかってくる戦略だと思い込んでいるように見える。
勿論、Sunとしてはv3を採用して、OpenSolarisを普及させたいところだろう。
Appleが次期Mac OS(Leopard)でSunの128ビット・ファイル・システムZFS(Zettabyte File System)を採用するように、Sunは得意とする機能をLinuxに組み込み込んで貰いたがっている。Torvalds氏は、それらが嵩じて、やがてはLinuxとSolarisが全面対決する構図を心配しているのかもしれないが、v2に固執すればするほど状況は不利になる。
Schwartz氏はそんなTorvalds氏の最近の発言を耳にし、自分の意見をブログに書きこんだ。「私たちは、協力したい、力を合わせ、コミュニティを結合して共同で作業をしたいと思っています。特定の技術を出し惜しみしたり、特許がどうのこうのとうるさく言う気はまったくありません。これが本気の申し出であることの証として、貴兄を我が家での夕食に招待したいと思います。私が料理しますから、ワインを持って来てくださいますか。これこそ、真のマッシュアップです。」
“We want to work together, we want to join hands and communities - we have no intention of holding anything back, or pulling patent nonsense. And to prove the sincerity of the offer, I invite you to my house for dinner. I'll cook, you bring the wine. A mashup in the truest sense.”
(日本語訳と英文はSun Microsystemsサイトの同氏のブログから転載)
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