RIA(Rich Internet Application)の世界で異変が起こりつつある。
Flashで大きくリードしていたAdobeに対し、Microsoftが挑戦し始めたからだ。
Microsoftが4月中NAB2007(National Association of Broadcasters Conference)で発表した「Silverlight」は、以前からWPF/E(Windows Presentation Foundation Everywhere)と呼ばれていたもので、.NETベースのランタイムはクロスプラットフォームの各種ブラウザにプラグインとして提供される。
<新たなる挑戦-Microsoft Silverlight>
Silverlightの一番の狙いは高画質ビデオ・ストリーミングだ。
この世界ではYouTubeやMySpaceなど殆どのサイトがFlash Playerを採用しているが、一方でFlashの品質や表示能力には限界がある。Microsoftはこの点を突いた。そこでSilverlightではWMV/WMA(Windows Media Video/Audio)フォーマットを軸に、同社が米国映画テレビ技術者協会SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)に提出して規格化したVC-1やMP-3を採用(MPEG-4やAACには未対応)。VC-1はWMV用の動画圧縮技術として開発されたもので、Windows Media PlayerにはWMV-9として実装されているし、HD-DVDやBlue Rayなどにも採用されている。これらの技術を適用し、且つ2MBに満たないプラグインは、高品位テレビ並みの高性能プレイヤとして機能する。実際Microsoftによると、Silverlightは720p(1280×720ピクセルのプログレッシブ・スキャン)までの動画対応が可能だという。
Silverlightはビデオだけでなく、アニメやグラフィックスでも高度な機能を展開する。
サイトのコミュニティ・ギャラリーには、マウスでページめくり(左下)が出来るサンプルやグランドピアノ(右下)が弾けるものなどが用意され、今までと違うユーザ・エクスペリエンスを味わうことが出来る。
Silverlightのスクリーン表示には、ブラウザ内に表示するエンベデッド・モード(Embedded Mode-左下)とデスクトップに表示するフルスクリーン・モード(Full Screen Mode-右下)の2つがあり、フルスクリーンではデスクトップのそれまでの解像度が適用されるし、切り替えはESCキーで簡単に出来る。
Silverlghtの技術的に素晴らしい点は、2D/3Dのオブジェクトの回転やイベント、プロパティ、リレーションシップなどの定義にXAML(Extensible Application Markup Language)を用い、実行には.NETの小型CLR(Common Language Runtime)を搭載していることである。これによってSilverlightは.NETの簡易環境をブラウザ上に展開し、開発言語にはC#、JavaScript、Python、Ruby、VBの使用が可能となった。XAMLはもともとWPFのコードネームであったAvalon時代には「Extensible Avalon Markup Language」と呼ばれていたことからも判るように2年以上もMicrosoftが暖めてきたものである。
そして開発環境には、「Visual Studio」や「Expression Sutudio」などが対応する。
とりわけ力をいれているのはExpressionだ。Expression Studioには、デザイナ用にWebデザインの「Expression Web」とXAMLがインラインに生成されるビジュアル・デザイン・ツールの「Expression Design」、インタラクティブ・エクスペリエンスの「Expression Blend」、ビデオ・プロフェッショナルにはデジタル・アセット管理やビデオ・エンコーディングを最適化する「Expression Media」が用意されている。現在、Expression Webは正式リリースが済み、Expression Blendはβ版、Expression DesignはCTP(Community Technology Preview)で、今年中には全てが正式リリースの予定だ。
Microsoftはまた、今回の発表に関連し、Silverlight用に作られたアプリケーションやコンテンツを同社データセンタにおいて最大4GB、速度が700Kbpsの配信サービス「Silverlight Streming」を無料で開始し、こうして、はっきりとAdobeへ挑戦する意思を明らかにした。
<受けて立つ-Adobe AIR/Flex 3>
受けて立つAdobeは、6月11日、Apollo(開発コード)を「AIR(Adobe Integrated Runtime)」と命名し、対となる開発環境の「Adobe Flex 3」と共にβ版としてリリースした。AIRのβ版には、軽量の組み込みデータベース「SQLite」、透過ウィンドウ、ドラッグ&ドロップなどの新機能が追加され、PDFもサポート対象となった。
AIRのアプリケーション開発は多様だが、大雑把にAIR SDK、Flex 3(含むFlex Builder 3)の2つと言っていい。AIR SDKにはAIRのAPIや各種のスキーマ、テンプレート、アイコンなどが含まれ、Flex 3のSDKには開発用コンパイラやライブラリ、デバッガーなど一連のツールが用意されている。Flex 3にはまた、EclipseベースIDE(Integrated Development Environment-統合開発環境)のFlex Builder 3があり、さらにデザインツールの「Adobe Creative Suite 3」との連携機能も加わって、デザイナからデベロッパへのワークフローや開発効率が大幅に向上した。
Flex 3のβ版に先立ち、4月26日、Adobeは明らかにMicrosoftを意識して、FlexをMPL(Mozilla Public License)でオープンソース化すると発表。これによって、デベロッパはFlex SDKを自由にダウンロードして改良し、結果を製品にフィードバックすることが出来るようになった。開発にはMXML(Macromedia Flex Markup Language)やJavaScriptの標準規格ECMAScript 4を実装したActionScriptを用い、そのアプリケーションはMozillaに寄贈された「ActionScript Virtual Machine」を使用してFlash Playerでも実行することが出来る。Flexの次期版「Moxie(コードネーム)」はプレリリースが今年夏、正式版は今年後半にリリースされる予定だ。
Microsoftからの挑戦を受けたAdobeにとって、想定されるシナリオはオープンソース戦略と製品整備である。翻ってみれば、2005年4月AdobeはMicromediaを買収してFlashを手に入
れ、育て上げてきた。今度はそのFlashをAdobe自身がAIRに変身させる番である。その総指揮を執るのはSVP(Senior Vice President)のJohn Loiacono氏だ。氏は元Sunのソフトウェア部門を現CEOのJonathan Schwartz氏から引継ぎ、Solarisのオープンソース化を手がけた。そしてOpenSolarisが一段落した後、19年間働いたSunからAdobeに移り、クリエーテイブ・ソリューション・ビジネス部門のSVPに就任。彼の手の内には旧Micromediaの製品群やPhotoshop、Illustratorなどがある。Sunでの実績を生かしてFlexをオープンソース化し、オープンソース・コミュニティのデベロッパを惹きつけて、Mozillaなどとも協調しながら、Microsoftと対立する図式を描きたいところだろう。
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